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zoom RSS 「炎の車輪」の見え方〜「星の光、いまは遠く」

<<   作成日時 : 2012/08/13 12:48   >>

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 「炎の車輪」とは、マーティン(George R. R. Martin)の小説「星の光、いまは遠く」(Dying of the light、酒井昭伸 訳)に登場する「星座」である。「辺境星域(フリンジ)」のどの惑星からも見ることができる。実態は、中心をなす赤色超巨星(「車軸」「地獄の眼」「肥えたサタン」などと呼ばれる)と、その周りを正六角形をなして公転する六つの中型黄色恒星(「トロヤ点の六連星(むつらぼし)」「地獄の冠」「サタンの子ら」などと呼ばれる)の7つの恒星から成る多重連星系である。

 物語の舞台となる放浪惑星ワーローンは、5年ほど前に「炎の車輪」に最接近し、再び恒星間空間に戻りつつある。物語の時点では、「車軸」は、「酔いどれ星域(ジャンブルズ)」にある植民星アヴァロンの太陽より少し大きく見える程度に離れている。ワーローンが「六連星」の公転軌道面に近い経路をとっているためか、「六連星」のうち二つは「車軸」に隠れていて見えない。ワーローンの夜明け時には、まず「六連星」のうち二つがのぼり、続いて「車軸」が昇ってくる。「車軸」が半分ほど昇ったところで、それらよりやや北に位置する3番目の黄色星が昇ってくる。最初の2つの黄色星は、肉眼でも点ではなく円形とわかるが、3つ目のものは遠いので星としてしか見えないという。

 以上の情報をもとに、「炎の車輪」の形状を整理してみたい。

◎「車軸」
 「車軸」は赤色超巨星だ。赤色超巨星というと、ポピュラーなのはオリオン座のベテルギウスやさそり座のアンタレスである。半径はベテルギウスが太陽の950〜1000倍、アンタレスが700倍に達するが、分類上は、太陽質量の10倍程度以上、半径は数百倍が下限のようだ。ここでは、直径が太陽の300倍程度とする。

◎「トロヤ点の六連星(むつらぼし)」
 「六連星」は、中型黄色恒星とされている。ここではG型の主系列星とし、質量、直径ともに太陽程度と考える。

◎「六連星」の配置
 「六連星」は「車軸」の周囲を正六角形を成して公転している。各々の星は、「車軸」と自身を1辺とする正三角形の頂点に位置している。物語の時点で、「六連星」のうち二つは「車軸」に隠れて見えない。六連星の軌道面と平行に、無限遠から見るとき、三角形の一辺は、「車軸」自身の直径より短くなければならない。ここでは境界条件として、「車軸」直径と同じとする。

図1 「炎の車輪」正面図(Bryce5で作図)
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◎ワーローンからの距離と視直径
 物語の時点で、「車軸」はアヴァロンの太陽より少し大きく見える程度である。簡単のため、同じ大きさに見えることにし、アヴァロンの太陽の視直径は地球の太陽と同じとすると、太陽直系の300倍の星が同じ視直径に見えるわけだから、距離も300倍、すなわち300AU(約450億キロメートル)となる。これは海王星軌道(長半径約40AU)の7.5倍にあたる。

 このとき、当然ながら太陽と同程度とした「六連星」の各恒星の視直径は太陽の300分の1になる。角度でいうと、0.5度の300分の1で6秒角である。なんとか黄色と呼べる範囲では、F0型の視直径が太陽の1.4倍だが、見た目は大差ないだろう。ちなみに、木星の視直径は最大50秒角弱、すなわち1分角弱で、太陽の視直径の約30分の1だが、肉眼で点ではなく円と認識するのは難しい。太陽の視直径は、腕を伸ばして持った5円硬貨の穴とほぼ同じなので、これを眺めながら考察すると、この5分の1くらい(6分角程度)が限界ではないかと思う。作中の説明の様に、「六連星」が肉眼で円として見えるのは難しそうだ。


◎ワーローンからの見え方

 作中の描写を一読して、場面によって互いに矛盾しているのではないか、これらを同時に満たす条件があるのかと疑問がわく。図1のモデルを用いて、試行錯誤的に探索してみる。

図2 「六連星」のうち2つが「車軸」に隠れる条件
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この場合、「車軸の視直径(=ワーローンの距離)」「六連星の三つ目が昇る時期」が満足しない


図3 「車軸」の半分が昇ったとき「六連星」の三つ目が昇る条件
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この場合、「車軸の視直径」「六連星の二つが隠れる」が満足しない。なお、「3つ目が1つ目、2つ目より小さく見える」も満足しないが、これは「2つが隠れる」とは絶対に両立しない。隠れる方が、見える方より遠くにあるのは必然だからだ。

図4〜6 「車軸」が太陽と同じくらいの視直径となる条件
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 この場合、「六連星の2つが隠れる」「3つ目が昇る時期」が満足しない。なお、「六連星」を少し回転させれば、一つは隠れ、一つは「車軸」の光球と重なるが、いずれにしろ「3つ目が昇る時期」は満足できない。

 作中で観測できる「六連星」の数または、地平線上に昇る条件を満たすには、ワーローンが車軸にかなり近く、パースがついて見えるのが必要であると分かった。また、作中の描写すべてを満足する条件がないことも分かった。

◎「炎の車輪」は「星座」なのか

 「炎の車輪」を構成する星々は、本当に「星座」として見えるのだろうか。

 300AUから見た「車軸」の視直径が0.5度(30秒角)のとき、「六連星」が形作る六角形の対角線の長さは1度(60秒角)、「車軸」の像と「六連星」の星々との最大離角は30秒角である。

図7 天球上での見え方のイメージ。Mitakaで作成。
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※ワーローンの空に見える星はこれより遥かに少なく、1ダース程度であることに注意

 人間の眼の分解能は、1/(視力)分角で表される。視力1.0なら1分角(60秒角)、2.0なら0.5分(30秒角)となる。とすると、300AUでも、すでに「車軸」と「六連星」を肉眼で区別するのは難しくなっていることになる。太陽と視直径がほぼ同じ月の表面の模様が判別できるのだから、もう少し楽観してよいとは思うが、「星座」と言うには、少なくとも肉眼ではっきり天球の2点に分かれて見える必要があるだろう。

 この時点で、すでに「星座」と呼ぶには無理があると思うが、さらに隣の恒星から見る場合を考えると、仮に隣の恒星系が1光年しか離れていなかったとしても、「車輪」の視直径はわずか1秒角程度となる。星座どころか、望遠鏡を使わないと、連星としてすら認識できないだろう。

◎その他

上記記事では潮汐力による恒星本体の変形は無視しているが、これほど近接していると、考慮が必要と思われる。別記事「登場事物の造形」で掲載した海外版表紙イラストでは、上記の図より更に車軸と六連星が近接して描かれているものもある。

■参考サイト
・ウィキペディア日本語版
  赤色超巨星
  ベテルギウス
  アンタレス
・科学のつまみ食い http://www/kagaku.info/index.html
  惑星を観察しよう http://www.kagaku.info/planet0350/

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