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zoom RSS アレス3着陸地点の実際 映画「オデッセイ」(The Martian)の参考

<<   作成日時 : 2016/02/27 15:27   >>

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映画「オデッセイ」で最初に登場する火星の風景が、有人火星探査ミッション「アレス3」での着陸地点である。これは、北半球のアキダリア平原にある。アキダリア平原は火星の広大な北部低地の一部を成す平原。原作小説の巻頭の地図におおよその位置も示されている。

映画中の着陸地点付近の光景の例(20世紀フォックスホームページより)
http://www.foxmovies.com/movies/the-martian
※ギャラリーページの8番目の画像
画像



アレス3着陸地点の位置(再掲)
画像


別記事でも触れたが、映画の中の火星の光景は、実際の着陸探査機が撮影した光景とかなり異なる。アレス3の着陸地点周辺の地表に降り立った探査機はないが、上空からの画像を見る限り、やはり映画中の光景とはかなり異なるのではないかと推察される。

そこで、公開されているデジタル地形モデル(DTM)を使って、アレス3着陸地点付近の光景の再現を試みた。

1.アレス3着陸地点付近の光景の再現

火星周回探査機マーズ・リコネッサンス・オービターに搭載された高分解能撮像装置「HiRISE」のホームページ(https://hirise.lpl.arizona.edu/)では、撮影された画像に基づく高精細な地形モデルが作成・公開されている。

The Ares 3 Landing Site: Where Science Fact Meets Fiction
http://www.uahirise.org/dtm/dtm.php?ID=ESP_041277_2115

(1)このうち、標高分布をグレースケールで置き換えた画像を、地形データのソースとして用いた。
使用データ:DTM Extras DTEEC_041277_2115_040776_2115_A01
http://hirise-pds.lpl.arizona.edu/PDS/EXTRAS/DTM/ESP/ORB_041200_041299/ESP_041277_2115_ESP_040776_2115/DTEEC_041277_2115_040776_2115_A01.ab.jpg
画像


(2)上記と同じ範囲の可視画像(ESP_040776_2115_RED_C_01_ORTHO.ab)の一部を切り出したもの。色はあとからつけたもので、本来は白黒。色は雰囲気で付けたので正確ではない。再現した場所の中心は、(1)の画像の中段付近、S字を横にしたような形に連なっているクレーター群のあたり。
画像


(3)(1)の地形モデルの範囲全域の標高分布(標高をカラーで表示)
http://hirise-pds.lpl.arizona.edu/PDS/EXTRAS/DTM/ESP/ORB_041200_041299/ESP_041277_2115_ESP_040776_2115/DTEEC_041277_2115_040776_2115_A01.ca.jpg
画像



(4)地上景観再現画像その1
画像

場所は、(2)の画像のクレーターの下側あたりで、カメラは北東方向を向いている。画面奥の方に見えている丘のような高まりは、北側にあるクレーターの縁である。
スケールの参考として宇宙飛行士と着陸船、帰還船を配置した。宇宙飛行士はアポロ宇宙飛行士の画像を転用(ライティングの都合で左右を逆にしたものあり)。着陸船と帰還船は、マーズ・ダイレクトの動画(https://www.youtube.com/watch?v=NMZy2gxrF4g)から切り出している。空の色はうまく再現できていないので、あくまで地形の参考。

再現画像の地点は、地形モデル範囲の中では比較的起伏に富んでいるのだが、それでも地表視点だと、この程度の起伏感にしかならない。クレーターの中にでもカメラを置けばまた違うのだろうが、こんな小規模なクレーターの中に危険を冒してわざわざ着陸する必然性もない。

(5)再現画像その2(遠望)
画像

画像の中央右下に、MAVと着陸船が見える。飛行士は辛うじて見分けられるスケール。着陸船などは板ポリゴンなのでパースが少しおかしい。
数メートルから十数メートルの小さなクレーターがたくさんあるのがわかる。

下記に挙げたHiRISE画像の解説にあるように、二次クレーターで埋め尽くされている。それぞれ規模は大したことはないが、確かに着陸地点としては不向きかもしれない。こうした小規模なクレーターは、HiRISEくらいの分解能でないと見分けるのは難しいのだろう。原作者のアンディ・ウィアーが執筆した当時、こうした画像にアクセスできたか、そもそも一般公開されていたか定かではなく、ここは致し方ないところかもしれない。

2.実際の着陸探査機画像からの類推(2016.3.27追記)

地形モデルからの類推だけだと、いまひとつ自信がないので、実際に探査機が着陸した地点の中で、作中のアレス3着陸地点に近いものがないのか、調べてみた。

マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)が撮影した衛星画像から類推すると、バイキング1号の着陸地点のようすが比較的近いようだ。次の図は、MROが撮影した、アレス3着陸地点付近と、バイキング1号着陸地点付近の画像を並べたもの。バイキング1号着陸地点の方がクレーターが多いようだが、どちらも全体に平坦で、直径が100メートルに満たない小規模なクレーターで埋め尽くされている点が共通している。

画像


両者の位置関係は、次の図のようになっている。アレス3はアキダリア平原、バイキング1号はクリュセ平原と、地形分類上は異なっているが、「世界地図」で見るとわかるように、どちらも火星北半球を占める広大な低地に属している。北部の低地を海洋に例えるなら、どちらも南部高地に入り込んだ湾の一部に属すると言ってもよい。地形の成り立ちが似ているから、衛星画像で見ても似ていると言えるかもしれない。

画像


画像


バイキング1号が撮影した地表の様子は、次の図のようなものである。目だった山のような地形は見当たらず、地表は不規則に起伏し、おびただしい岩が散在している。上のアレス3再現画像に、岩を加えると実際の光景に近いのかもしれない。

画像


ところで、アレス3着陸地点の衛星画像と、映画「オデッセイ」のロケが行われたヨルダンのワディ・ラムの航空写真を比較したのが下の図である。縮尺はワディ・ラムの方が若干小さいが、地形が全く異なるのが一目瞭然である。


2016/10/17追記
DVDレンタルでじっくり鑑賞してみて改めて気付いたのだが、ワトニー遭難後、ミンディ・パークが初めてアレス3着陸地点の画像を見る場面。衛星画像をクローズアップしていくと、念の入ったことにロケ地ワディ・ラムの航空写真が出てくる。
火星の地表も、マーズ・パスファインダー着陸地点に行ってもワディ・ラム、アレス4着陸地点があるスキアパレリ・クレーターに行ってもワディラム、ひたすらローバーを駆る背景がいつもワディ・ラムの空撮と言った具体で、まったく同じ景色が延々と展開される。この辺、もちょっとなんとかならなかったんだろうか・・・


画像


ワディ・ラムは、アカバ湾からヨルダン川を経て死海などにつづくトランスフォーム断層の東側に位置している。東のアラビア・プレートと、西側のアフリカ・プレートが水平にすれ違う境界であり、地震も多い。こうした地殻のダイナミックな運動にともない、ワディ・ラム付近には多数の断層や、断層と推定される構造がある。画像にみるような谷は、そうした断層が弱線となって侵食を受けたものだろう(だから切り立った崖が直線的に続いている)。

Atlas of Jordan - A Seismic Junction (http://books.openedition.org/ifpo/4861)より
画像


火星には、そもそも地球のプレート運動のような活発な地質活動が存在しない。衝突クレーターの内側には、切り立った崖や中央丘が見られるが、映画「オデッセイ」でワトニーが旅するルート上には、ワディ・ラムのようなシャープな崖はあまり見られないようだ。

3.アレス3着陸地点付近の実際の衛星画像(2016.4.1 画像追加)
小説出版後、NASAのPhotojourna(http://photojournal.jpl.nasa.gov/)で、実際に探査機が衛星軌道から撮影したアレス3着陸地点付近の画像が何度かリリースされている。NASAの支持ぶりが伺えるが、これら豊富なデータが映画中のシーンに活かされていないのは残念だ。

以下、リリース順に列記する。

(1)PIA19306: Ares 3 and The Martian
http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA19306
画像

2015年3月11日発表。
マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)のHiRISEによる疑似カラー画像。HiRISEの分解能は、ピクセルあたり0.25m(25cm)〜1.3m。
作中のアレス3着陸地点に近い。溶岩と地下水の相互作用か泥質の堆積物の噴出による古い火山状地形とみられる、たくさんの隆起がみられる。
アキダリア平原は高さ数メートルの転石が多く、ローバーで走り回るには向かない。隕石衝突で飛ばされてきた岩石がつくった二次クレーターが多く、ローバーのスケールでは凹凸の多い地形となっている。アキダリア平原は、キロメートルスケールの画像では大変滑らかに見えるが、1〜数十メートルのスケールではそうではない。大規模で低平な地域は、細かな砂や塵が風で吹き払われ、転石や基岩がむき出しになっている。
この画像は、HiRISE画像 ESP_019783_2115(http://www.uahirise.org/ESP_019783_2115)の一部。
※HiRISE画像のタイトルは「Mounds in Chryse Planitia」であり、アキダリア平原ではなくクリュセ平原とされている。

(2)PIA19363: Ares 3 Landing Site: The Martian Revisited
http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA19363
画像

2015年4月22日発表。
マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)のHiRISEによる疑似カラー画像。この記事で作成したCGの地点および「NASA Mars Trek」(http://marstrek.jpl.nasa.gov/)でのアレス3着陸地点を含む。
侵食されたクレーターの内部に、風による堆積物が見える。
フルサイズ画像の分解能だと、「火星の人」に登場する直径6mのハブは20ピクセルで、画像中央に見える大きなクレーターの10分の1のサイズ。
この画像は、HiRISE画像ESP_041277_2115(http://hirise.lpl.arizona.edu/ESP_040776_2115)の一部。


(3)PIA19913: The Ares 3 Landing Site: Where Science Fact Meets Fiction
http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA19913
画像

2015年10月5日発表。
マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)のHiRISEによる疑似カラー画像。
北緯31.3°、東経331.3°
この画像も、(2)と同じHiRISE画像ESP_041277_2115(http://hirise.lpl.arizona.edu/ESP_040776_2115)の一部。


(4)PIA19796: The Martian, Part 1: Acidalia Planitia
http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA19796
画像

2015年10月12日発表。
2001 Mars Odysseyに搭載された熱放射撮像システム(THEMIS)により撮影。THEMISの解像度は、可視光でピクセルあたり18mなので、おおざっぱにいうとHiRISEの10分の1。
北緯31.218°、東経332.195°


なお、(1)、(2)=(3)、(4)の画像の、少し広域的な位置関係は下の図のとおり。画面はNASA Mars Trek(http://marstrek.jpl.nasa.gov/)より。もし、アレス3着陸地点をMars Trekの地点とするなら、この記事で作成したCGよりも、さらに真っ平だろうと思われる。

なお、(1)、(4)の画像の位置は、この図のためにはめこんだものであり、Mars Trekでは表示されない。

画像


(2016.5.5 Photojournalの記事のサムネイル画像を追加し、画像位置図に(1)の画像も追加)



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コメント(2件)

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火星探査機が次々と実際の火星の風景を送ってくる様になるとなると 地球の砂漠で撮影して火星だと言い張るのもだんだん難しくなってきますね。
NASAが最新の資料を提供しても「ロケ地は決まってるし、CGで再現までする予算はない…」と悩む監督が想像できます。
原作ファン
2016/04/01 20:18
原作ファンさま

>火星探査機が次々と実際の火星の風景を送ってくる様になるとなると 地球の砂漠で撮影して火星だと言い張るのもだんだん難しくなってきますね。

そこが案外そうでもなく、まだまだこれで通用するんだなというのが、今回の映画を見ての印象です。

地球で撮影するにしろ、もうちょっと似た場所はなかったのかなというところは気になります。
MASA(管理者)
2016/04/01 22:51

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