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zoom RSS ヘルメスからみた地球と火星 映画「オデッセイ」(The Martian)の参考

<<   作成日時 : 2016/03/06 16:40   >>

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映画「オデッセイ」で、ヘルメスの背後に初めて地球が見えるシーンを見て驚いたのは、地球が非常に大きく描かれていたことだ。ヘルメスが、地球への帰還をとりやめ、ワトニーが待つ火星へとコース変更する「リッチ・パーネル・マヌーバ」を行う前のカットだったと記憶している。

ヘルメスの向こうに見える地球(予告編スクリーンショット)
The Martian | Official Trailer [HD] | 20th Century FOX
https://www.youtube.com/watch?v=ej3ioOneTy8
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原作小説「火星の人」によると、リッチ・パーネル・マヌーバを開始した時点で、ヘルメスはまだ地球から90光秒、約2700万km離れていた。これは地球と月の距離の90倍にあたる。しかし、映画での地球は、地球から見た月よりも大きく見えるように感じられた。

ちなみに、日本の探査機はやぶさが、帰還の途上で初めてスタートラッカーで、地球を点像として捉えたのは、2010年5月12日、距離1350万キロからである。ヘルメスは、この倍近い距離にいたことになる。

先のカットで、地球が大きく描かれ過ぎていると感じたのは、そのような予備知識があったせいもある。

『「はやぶさ」が、故郷、地球をとらえた!(2010年5月17日)』より
http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2010/0517.shtml
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そこで、ヘルメスからどのように地球が見えるのか、再現してみることにした。あわせて、火星フライバイの前、ヘルメスが火星のワトニーと初めて交信を許されたときの火星の見え方も確認してみた。


■ヘルメスと天体の位置関係の確認

まず、ヘルメスの飛行経路と、そのときどきの天体の位置を確認した。別記事(http://masamich.at.webry.info/201602/article_2.html)で取り上げた「Inside The Spaceflight Of 'The Martian'」(https://www.insidescience.org/content/inside-spaceflight-martian/3251)の軌道図では、ヘルメスと、地球または火星との位置関係が不明なので、同じく取り上げた、原作者アンディ・ウィアーによる動画(http://www.galactanet.com/martian/hermes.mp4 または https://www.youtube.com/watch?v=khIHZp_GTEI)からフレームを切り出し、画像上でヘルメスと天体の位置を計測することにした。

アンディ・ウィアーによる飛行計画は、前出の「Inside The Spaceflight Of 'The Martian'」とは若干異なる。また、日数をフレーム単位で案分計算すると、公称の日数と少し合わない場所が出てくる。今回は、別ソフトで天体の見え方を検討する都合上、図上計測の数値や日数を使用することにした。

原作者アンディ・ウィアーの動画から作成したヘルメスの飛行計画図
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時期については、「Inside The Spaceflight Of 'The Martian'」と同じく、地球スウィングバイの44日前とした。また、ヘルメスと火星の更新日は、火星到着の20日前とした。

■地球までの距離と見え方

この図をもとに、まずリッチ・パーネル・マヌーバ―開始時点での地球の見え方を確認してみる。

リッチ・パーネル・マヌーバ―開始時のヘルメスと地球の位置関係
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図上計測では、この時点でヘルメスは地球から2830万キロ、94光秒離れており、作中の数値に近くなった。また、位置関係としては地球が先行しており、ヘルメスが追いかける形となっている。地球の軌道速度は平均約29.8km/sに対して、ヘルメスは約40km/sで飛行しているようだ。小説では、地球に帰還するのであれば、本来はこの時点で減速を始めるのが必要だったとしている。

地球との距離、位置関係をもとに、国立天文台の天文シミュレーションソフト「Mitaka」(http://4d2u.nao.ac.jp/html/program/mitaka)で、ヘルメスから見た地球の見え方を再現してみた。まず、軌道図から推定した方角に視野を設定した後、距離を調整した。距離は、地球の形、光の当たり方がはっきり見分けられる距離から、順次、実際の距離に遠ざけていった。

なお、この後の火星の見え方も含め、方角は「だいたい」であることに注意。

(1)約4万2000キロメートルから(静止衛星軌道くらい)
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(2)約40万キロメートルから(月軌道くらい)
ここでの視直径は、地球から見た月の4倍あるが、画面に投影するとかなり小さく見える。デジカメなどで月を含む風景を撮影すると、月が想像以上に小さく見えて驚くが、それに近い感覚である。
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(3)約100万キロメートルから
しいて言えば、太陽-地球系のラグランジュ点(L1点)(120万キロメートル)に近い。近年では、米国の深宇宙気候観測機DSCOVR(ディスカバー)が、L1点から常時地球を観測している。(http://www.nesdis.noaa.gov/DSCOVR/
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(4)約2800万キロから
ヘルメスから見たようすに相当する。地球を肉眼で円盤像として視認するのは難しいだろう。
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次に、火星フライバイの20日前、ヘルメスのクルーと、火星上のワトニーが初めてテキストにより直接交信したときの火星の見え方を確認してみる。

ヘルメスと火星の位置関係
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図上計測で、火星から987万キロ、33光秒となった。小説では35光秒と書かれていたので、まあまあ近い値に収まった。また、このとき、地球からヘルメスまでは2億2000万キロあまり、12.2光分離れていた。

■火星までの距離と見え方

同じく、火星の見え方を近距離から順次確認する。

(1)約4万2000キロから
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(2)約40万キロから
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(3)約100万キロから
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(4)約980万キロから
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■地球から見た月との比較

以上から、それぞれのケースで、地球も火星も、円盤像として見分けるのは難しそうであることがわかる。

これだけだとピンとこないので、上記のタイミングでの地球と火星の視直径の比較用として、地球から見た月と並べた画像を作ってみた。

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なお、地球よりひとつ太陽寄りを公転する金星の視直径が最大1分程度である。上図の地球と火星は、最も大きく見えるときの金星と比べて2倍前後の視直径ということになる。言うまでもなく、金星を肉眼で円盤像として見るのは、まず不可能である。従って、上記2ケースでも、地球または火星を肉眼で円盤像として認識するのは難しいだろう。

もし映画中でこのことを忠実に描くのであれば、まず望遠で地球の円盤像を映し、ズームバックして点像となるくらいでヘルメスの船体が画面に入ってくるくらいにすべきなのではないだろうか。

(2016.3.7追記)
ちなみに、この円盤像から点像にズームバックというカメラワークは、マーズ・エクスプロレーション・ローバー(「スピリット」と「オポテュニティ」)の打ち上げから着陸までの解説動画の冒頭で見ることができる。

Mars Exploration Rover 2003
https://www.youtube.com/watch?v=-_9BYSDtwRc
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
映画となると見栄え優先で現実通りに描写するのは味気ないと思うのでしょうかね
ワトニーのインタセプト位置も火星に近すぎるのでは?
火星から来て地球の昼側をスイングバイすると減速スイングバイになるのでは?
補給船ドッキング時もワトニー救出時も居住ブロック回しっぱなしとかw
原作ファン
2016/03/30 23:40
原作ファンさま
地球スウィングバイ、火星フライバイ時の描写も忠実とは言い難いですね。原作に沿って確認してみたい点ですが、具体の数値があまり示されていないので難しいところです。
居住ブロック含めヘルメスの造形は原作との差異をあげるときりがありません。そもそも原作では船体そのものを回転させているようですし。
見栄え優先なのは映画だからというよりリドリー・スコット監督の作風だと思います。絵的には非常にきれいです。ロン・ハワードあたりが監督していたら・・・とか、ピクサーあたりが火星の情景造りに噛んでいたら・・・とか、妄想するところではあります。
MASA(管理者)
2016/03/31 07:16

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