MASA Planetary Log

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画「ジュピター20XX」(ASTRONAUT:The Last Push)鑑賞後雑感

<<   作成日時 : 2016/11/08 00:40   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

※内容に触れている部分があります。

画像


■総評
 邦題の「ジュピター 20XX」とパッケージ画からすると、木星圏に赴いての諸々の顛末を描くのだろうと想像するが、本編が始まってしばらくすると、違うことがわかる。原題「ASTRONAUT : The Last Push」を見ると、ああなるほどと思う部分はある。邦題が原題に忠実なら悪くないと思えるかもしれない。
 しかし、冒頭のエウロパの生物の前振りはかなりインパクトがある。主人公が終盤に危険を冒しても誰かが見に行く必要があると言って地球への帰還を取りやめ、エウロパを目指すのだが、そうであればこそ、エンドロールのバックグラウンドとか、その後のおまけ映像でもいいから、ちゃんと「エウロパの鯨」の観察を果たすシーンが欲しかった。

■目的地
 目的地は木星の衛星エウロパ。着陸予定地点を説明するシーンはないが、着陸手順を説明する劇中動画の中で、地平線の向こうに木星が大きく見えている。また、雲の模様を見ると大赤斑の南西にある白斑が見え、縞模様はおよそ45度の角度に見え、左上方向が北になっている。このことから、着陸地点はエウロパの先行半球、経度90°、北緯45度付近と思われる。
 ただ、エウロパの「鯨」発見の経緯を説明する劇中動画では、最初に「SEARCH REGION 1」として、経度193度、北緯38.5°付近、カドマス・リネア(Cadmus Linea)と呼ばれる線状模様の付近が示されている。経度180°は木星から見て裏側にあたるため、ここからは木星を見ることはできない。

画像


■エウロパの生命とその観測方法

 同じ動画の中で、それまでの探査で確認された「鯨」の映像が紹介される。動画では、推定体長3.62qとされている。絵的には、ザトウクジラの空撮をモノクロにし粗くしただけのものに見えるが、異星の巨大海生生物というと、星野之宣の漫画「ベムハンター・ソード」シリーズの一編、「母なる海の星」に登場する「レヴァイアサン」を彷彿とさせる。

画像
星野之宣「ベムハンター・ソード」シリーズ「母なる海の星」より
手前が幼体(体長700m)、奥がその母親。体長3キロ以上ありそう


 また、アーサー・C・クラークの小説「2061年宇宙の旅」では、エウロパの海で海生動物に遭遇する。オウムのような嘴をもつサメに似た生物として描かれている。

 ところで、劇中の説明動画では、「鯨」の画像の注記として、「Synthetic aperture radar image[SARI]」や「Sub-surface x-ray image[SSXI]」といった、生命体を撮像した観測装置の名称と思しきフレーズが出てくる。

 SARは合成開口レーダーの略。実在する装置で「だいち2号」に搭載されているほか、金星探査機マゼランが金星の雲を透過して地形図を作成するために、また土星探査機カッシーニが衛星タイタンの地表を観測するために用いている。可視光とことなり雲に邪魔されずに観測できるのが特徴。また、比較的長い波長を用いると、地表の堆積物を透過して地下の構造を観測することができる(スペースシャトルSTS-2で打ち上げられたSIR-Aでは、サハラ砂漠の砂を透過して太古の川の跡を観測している)。

Shuttle Imaging Radar http://www2.jpl.nasa.gov/missions/past/sir.html
Shuttle Imaging Radar-A http://www.jpl.nasa.gov/missions/shuttle-imaging-radar-a-sir-a/
SIR-Aによるサハラ砂漠の観測事例(スミソニアン航空宇宙博物館のランドサットの解説)https://airandspace.si.edu/exhibitions/looking-at-earth/online/orbital-vistas/landsat.cfm

画像


 また、SARとは異なるが、ESAの火星探査機マーズ・エクスプレスに搭載された「MARSIS」やNASAの火星探査機マーズ・リコネッサンス・オービターに搭載された「SHARAD」などのレーダー観測装置では、火星の地表を透過して地下の構造や極冠の層状構造の観測を行った。

MARSIS http://sci.esa.int/mars-express/34826-design/?fbodylongid=1601
MARSISによるクリュセ平原の地下l構造 http://sci.esa.int/mars-express/40459-buried-basins-in-chryse-planitia/
SHARAD http://mars.jpl.nasa.gov/mro/mission/instruments/sharad/
SHARADによる極冠の構造 http://photojournal.jpl.nasa.gov/catalog/PIA10652

画像


 検討されているエウロパ探査ミッションでも、レーダーを用いた氷の層の厚さの測定や、地球の南極に見られるような氷床下の湖の探索が挙げられている。

Mission to Europa http://www.nasa.gov/europa/overview/index.html

 ただ、そうした機器により作中の鯨のような高分解能の画像が撮れるとは考えにくい。前述のSHARADは、垂直方向の分解能は10mを超える(細かい)が、水平解像度は300m〜3qとされている。また、電波は水中では(したがってエウロパの海中でも)急速に減衰するため、軌道上からのレーダー観測で水生生物を探知するのはそもそも難しいと思われる。もうひとつの「SSXI」(地下X線撮像(器))にしても、エウロパの地下からX線が放射しているのでもない限り無理だろう。

■宇宙船「ライフ・ワン」

 劇中の説明動画で、デルタ風のロケットの打ち上げシーンが出てきており、在来型のロケットを複数回打ち上げて軌道上で組み立てたことが示唆されている。比較的小振りな円筒状モジュールとトラスの組合せになっており、トラス構造のアームの先についている船室内にほぼ1Gの疑似重力を発生させる構造。 この映画では、アーム部だけが回転するのではなく、船全体を自転させている点は、リアルと言える。映像から、ライフ・ワンの回転数は1.5RPM程度、アームの長さは30mくらいとすると、実際に発生できる人工重力は0.02G程度と思われる。

 映画の終盤、地球の上空で再突入カプセルを切り離すシーンがあるのだが、このときは船の自転を一旦止めている。自転したままで切り離せば接線方向に猛スピードで飛んでいくことになるため、自転を止めるのは理にかなっている。(小説「火星の人」でも宇宙船ヘルメスは巡航時以外は自転を止めている)。自転を止める際には、船室の側面の小型ロケットを噴射している。自転の停止・始動のメカニズムまで劇中で見せているわけで、芸が細かい。

 ただ、エウロパ着陸時はトラス両端のモジュールを複雑に着脱して着陸船を(エウロパ上空で!)組み上げることになっており、かなりリスキーなデザインであることがわかる。これも説明動画に出てくるだけで、劇中で見られなかったのは残念。

 また、宇宙船本体には遠心力アーム以外の構造物が見当たらない。本来であれば、太陽電池パネル(航行中の電力を太陽光で賄う場合)、放熱パネル、高利得アンテナなど、最低限そういったものが外付けされているのが自然のように思う。また、アームを含む回転部に比べ、中心軸になる本体部がかなり小さく感じられる。主エンジンの推進剤の貯蔵スペースが小さすぎるように思うし、軸部が小さいと、船室などの質量の変化により回転が不安定化しやすくなるような気がする。

公式サイトより「LIFE ONE mission info」
http://www.thelastpushmovie.com/THE_LAST_PUSH/LIFE_ONE_mission_info.html
同ページに掲載の動画「ASTRONAUT: The Last Push - Path To Europa - LIFE ONE」


■事故後の対応
 肝心の本編は「月に囚われた男」「ゼロ・グラビティ」のように飛行士が孤独にサバイバルするのだが、通信などの事情からすると少し孤独がこじつけに過ぎるように思える。いくら一企業の事業でも、劇中のように世界中から(日本の静岡からも!)応援が寄せられるような状況なら、NASAほか国の機関もとっくに支援に入っていてしかるべきではないか。

 飛行士が壊れた再突入カプセルの調査を拒むのも首をかしげる。いくら相棒の亡骸がそのままになっている場所だからといっても、カプセルは船の制御を復旧する上で欠かせない場所なので、本来なら選択の余地はないはず。地上管制にとっても、船の破損状況の把握は復旧方法の検討に不可欠のはずだ。

 それを怠ったから噴射試験が失敗の連続だったのかもしれないが。

■復旧
 本作は「2001年」ばりの人工冬眠を採用している。この点は、「エウロパ」や「オデッセイ」と比べても技術的に大幅な飛躍がある。

 それはさておき、本来、道中は冬眠状態で物資の消費を抑えて飛行するはずだったとすると、事故後は食料リサイクル装置をはじめ、生命維持システムが予定期間を大幅に超えて酷使されることが容易に推察される。
 こうした問題をいかに解決するか、とか、微小隕石の直撃を受けた船の健全度を把握し、どう復旧するのか、とか、アポロ13や映画「オデッセイ」のように、技術的課題を解決していく過程をを描く作り方もあったのではないかと思う。


■金星
 金星スウィングバイは本作のハイライト。地球の雲の色を変えただけの感は否めないがそれでも美しい。
 金星という場所は、最近では「あかつき」が軌道投入されたことで、一気に身近になった感があるが、それでも人が乗った宇宙船が、雄大な雲を背景に小さく映っている絵は、探査機からの画像だけでは想像しにくい金星という惑星の大きさ(地球とほぼ同じ)を感じさせてくれる。
 ところで、金星に接近すると言うことは地球近傍に比べて太陽に近い分高温にさらされるわけだが、温度への対処が描かれていてもよかったかもしれない。

画像
本作での金星フライバイのスクリーンショット


■飛行計画
 本作の本来の経路は、打ち上げ後、金星と地球でスウィングバイののち木星に到達するというもの。実際の惑星探査でも、外惑星への探査機が金星フライバイを利用した例がある。

 木星探査機ガリレオは、1989年10月18日に打ち上げ後、1990年2月10日(約4か月後)に金星スウィングバイ、1990年12月8日と1992年12月8日に地球スウィングバイを行った後、1995年12月8日に木星軌道に投入された。金星-地球-地球重力アシスト、略してVEEGAと呼ばれた。
 土星探査機カッシーニは同様に金星2回、地球、木星各1回の重力アシストを受けて飛行し、VVEJGAと呼ばれた。

木星探査機ガリレオ https://en.wikipedia.org/wiki/Galileo_(spacecraft)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%AA%E3%83%AC%E3%82%AA_(%E6%8E%A2%E6%9F%BB%E6%A9%9F)

VEEGAの経路
画像
46BLYZより



土星探査機カッシーニ https://en.wikipedia.org/wiki/Cassini%E2%80%93Huygens
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%8B_(%E6%8E%A2%E6%9F%BB%E6%A9%9F)

カッシーニの飛行経路(VVEJGA)
画像
Cassini: Mission to Saturnより



 本作の場合は、VEGAとでも言うべきか。
画像
本作での飛行経路のスクリーンショット


 それが序盤の事故で断念され、地球への帰還に変更となる。このための金星スウィングバイおよびそれにむけた軌道修正は、帰還の実現には決定的に重要なはずだが、いつのまにか成功してしまっている。

 終盤では地球帰還を中止し、木星行きを決断することになるのだが、その場所がすでに地球上空となっている。実際、木星に向かうのと地球に帰還するのとでは、金星スウィングバイの段階からして飛行経路の取り方が違うのだろうと思うが、作中では地球近傍まできてあっさりと最後の軌道変更ができてしまう。

 まあ、これができないと物語が成り立たないわけだが、元々ミッション期間13年にもおよぶ木星往還船であり、片道旅行(たぶん)となれば推力や推進剤には、この時点ではかなり余裕があるとか、何かしらの理由づけがあればよかったかなと思う。また、同じキャンセルするにしても、作中のような地球低軌道では時間的な余裕はないだろうから、もっと遠くに地球が見える時点での変更にしたほうが、リアリティが出るように思う。

■その他
 映画「エウロパ(Europa Report )」もそうだが、本作もエウロパの生命がひとつの題材となっている。日本の映画ではあまり聞かないが、アメリカではSFの題材としてかなり定着しているのかもしれない。
 また、同じ木星ミッションでも、「2001年宇宙の旅」や、「2010年〜」が国家プロジェクトだったのに対して、「エウロパ」も本作も民間の計画になっている。国際宇宙ステーションへの補給ミッションをスペースXやオービタル・サイエンシズなどの民間会社が担うようになってきていることを背景としているようで面白い。


2016.11.9 画像を追加、本文の一部加筆修正
2016.11.12 画像を追加、本文の一部加筆修正




ジュピター20XX【動画配信】
楽天SHOWTIME
頭脳派俳優カリー・ペイトンの真骨頂! 孤独に苛まれる主人公を全編とおしてほぼ単独で熱演! 最新のVF


楽天市場 by ジュピター20XX【動画配信】 の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル




新装版 ベムハンター・ソード1巻【電子書籍】[ 星野之宣 ]
楽天Kobo電子書籍ストア
宇宙の果ての惑星には、数多くの異星獣(ベム)が生息している。主人公ソード・ランは依頼を受けベムを生き


楽天市場 by 新装版 ベムハンター・ソード1巻【電子書籍】[ 星野之宣 ] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
映画「ジュピター20XX」(ASTRONAUT:The Last Push)鑑賞後雑感 MASA Planetary Log/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる