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zoom RSS ティアマト彗星の見え方〜「君の名は。」雑感

<<   作成日時 : 2016/12/11 10:27   >>

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前の記事(http://masamich.at.webry.info/201612/article_1.html)で作成したティアマト彗星の軌道図は、Microsoft Excelで作図したものをMitaka(http://4d2u.nao.ac.jp/html/program/mitaka/)で作成した太陽系の軌道図に重ねあわせたものだった。

今回、Mitaka Plus(http://orihalcon.jp/mitakaplus/)で彗星そのものを追加して描画させてみた。Mitaka Plusでは、データフォルダに軌道要素などを記述したテキストファイルを追加することで任意の小天体を追加することができる。

軌道要素は、前回の計算をもとに、地上視点での見え方も確認しながら試行錯誤的に決めた。特に軌道傾斜角については前回は0°(つまり地球と同一軌道平面上)としていたが、北半球にある日本から天頂を横切るようにみえることを考慮し、傾斜角を付けてみた。いろいろな視点で作図しながら、地上からの見え方や最接近時の距離などの条件をなるべく満たすように調整していったので、図ごとに軌道傾斜角が異なっている場合がある。今のところの最終的な軌道要素は以下の通り。

近日点距離 q: 0.19355 ←劇中の図から水星軌道の半分
離心率 e: 0.99828602 ←公転周期1200年と近日点距離から
軌道傾斜角 i: 0.075 ←上記のとおり試行的に決定
近日点引数 w: 180.00 ←軌道長軸を軸として傾斜角を付けている
昇交点黄経 node: 319.0790 ←2013年10月4日の地球近傍を通るよう設定
近日点通過時刻 Tp: 20131107.65625 ←同上

■上記の軌道要素による軌道図
黄道北極方向から見下ろす視点で、春分点を右方向にとってある。
(1)全体図
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(2)冥王星軌道が収まる範囲
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(3)木星軌道が収まる範囲
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(4)火星軌道が収まる範囲
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■ティアマト彗星の運動
Mitaka Plusに天体として持ち込んだことで、時系列的な運動を簡単に再現することができた。ただ、試した限りでは、Mitaka Plus上では地球を大写しにするくらいのスケールだと、ティアマト彗星の軌道を表す曲線と、彗星本体を表す球体が10万キロくらい離れて表示されてしまう。とりあえずそこは目をつぶって、本体の位置が作中の条件に近づく様に軌道要素を微調整した。
(1)火星軌道が収まる範囲
 この図では、2013年6月から2014年1月までの運動を表している。背景図は2013年10月4日時点の惑星とティアマト彗星の位置。ティアマト彗星軌道には、日ごとの彗星の位置を、惑星軌道には同じ日の位置の目盛を振ってある。水星は公転運動が速く、期間中に2周目に入るため、2周目の目盛は二重線にしてある。ティアマト彗星の地球最接近日と、近日点通過日の目盛は色を変えてある。
画像

 ティアマト彗星は図の右側から視野に入ってきて、惑星と同じく反時計回りに運動している。彗星の標示には尾も描いてあるが、尾の伸びる方向を表す目的であり、長さは適当である。彗星の尾は彗星の運動方向とはほぼ関係なく、太陽の反対方向になびく。近日点を通過した後は、尾を前にして進んでいく。多くの一般的な映像作品では、尾をなびかせながら進む様子が描かれるが、実際にはこうした直観的な姿とは異なっている。

(2)地球近傍 その1
 地球固定視点で描いたティアマト彗星の軌跡。
 上の図と異なり、軌跡が右上から左下に向かっていることに注意。これは、太陽固定視点では図(1)のような運動をする間に、地球自体が図(1)の軌道上を下から上に向かって運行していることによる。
画像

 小説版では、最接近時の距離は12万キロとされているが、この図でずいぶん近くをとおっているように見える。これは、彗星が地球の北側(この図の手前方向)をとおっているためである。
 尾の長さは図(1)と同じく適当だが、作中での天球を横切るような眺めを考慮しても、さほど長くはないと思われる。前の記事で挙げた百武彗星が地球から1500万キロ程度の距離を通過したことを考えると、ティアマト彗星の15万キロという距離はまさに桁違いに近い。作中では百武彗星よりもかなり明るく描かれている(なにせ東京の空でくっきりと見えるくらい)が、100倍も近いことを考慮すると、ティアマト彗星のコマや尾は百武彗星に比べると数十分の1程度の規模でもおかしくない。

(3)地球近傍 その2
 図(2)の範囲をおおよそ太陽の方角から見た図。月軌道の平面とティアマト彗星の軌道の位置関係がわかるようにしたもの。この軌道要素では最接近距離は約15万キロ。
画像


■ティアマト彗星の地上からの見え方
 上述の設定で、Mitaka Plus上で日本からの見え方を調べてみた。観測地点は明石市(東経135°北緯35度)である(Twitterでは東京と書いてしまったが、経緯度をよく見ると明石市だった)。背景の星空は2013年10月4日20時。
  Mitaka Plusでは彗星の尾を描画することができないが、特に最接近となる20時頃(小説では19時40分)に作中のようにティアマト彗星の尾が天頂近くにのびるよう、すでに地平線下に没している太陽の真上付近に位置するように調整している。この図では、軌道傾斜角を初期検討の0.03°としたが、前述の図での0.075でも大勢に影響はない。
画像

 彗星は日没直後に東の空からのぼり、次第に速度を速めながら、わずか2時間ほどで西の地平線に沈んでいく。天球上の速度が非対称となっているのは、最接近時刻の20時頃に作中のように地平線に近い位置で尾を引く様に調整したため。もう少し西の地域(例えば中国)では、最接近時に最高点付近にくるはずである。


■地球の引力の影響
 ここまで書いてきたのは、ティアマト彗星が地球を含む惑星の引力の影響を受けず、単純にケプラーの法則に則って運行する場合の話である。実際にティアマト彗星のような小天体が、地球からわずか10数万キロという近距離を通過する場合には、地球の引力の影響を受けるはずである。次の図は、それを非常におおざっぱに計算してみたもの。
画像


 地球は静止しており、彗星は図の下端から上端に向かって動いていると仮定する。図の範囲は地球を中心として月の軌道をカバーする±50万キロ。地球の引力の影響がない場合の地球との最短距離を15万キロとし、計算は図の範囲の外、100万キロの地点から開始している。初速は秒速30キロから500mまで変えている。本来はティアマト彗星の太陽に対する速度と地球に対する速度は異なるが、とりあえず無視する。前掲の図を見ると、地球通過後に月に近いところを通過するようだが、この計算では月の引力は考慮していない。

 ティアマト彗星本体の運動を考えるケースとして、秒速30キロのケースを調べると、地球接近後に、この図から出る時点で、本来のコースから約3000キロ地球よりに進路を曲げられている。この割合でコースを延長すれば、軌道は大きく変わってくるはずで、1200年後の次の回帰では地球からかなり離れた位置を通ることになるかもしれない。逆に言うと、糸森湖や御神体カルデラを作った隕石は、仮にティアマト彗星が母体だとしても、核からの分離や落下のコースはかなり異なったものだったかもしれない。

 初速が異なるケースは、核から分離した物体の運動とみなすことができる。この図での計算条件では、100万キロ先で分離した物体が地球に衝突するのは、秒速500mのケース、つまり彗星本体から逆方向に秒速29.5qで打ち出された場合だけである(図では地球を回り込んでいるが、数値上は最短距離7500キロとなっているので衝突しているとみなせる。地球の半径は約6400キロ)。

 前掲の図で、日本からティアマト彗星が見えるのは早くても17時半以降であり、このときティアマト彗星はすでに月軌道の内側に入っているから、地上から核の分裂が観測されてからでは、さらに高い速度で分離しないと地上には落ちてこない。地上から打ち上げた物体が人工衛星になれる第一宇宙速度が秒速約7.9キロだから、かなり難しいと言わざるを得ない。それ以前に本体より低速度ということは、隕石は本体が地球を通過してだいぶたってから落ちてくることになる。もっと遠距離で、より小さな速度で分離していたものが、地上からの視線方向では彗星本体と並んで見えており、近くに来てから急に離れて見えたと考えた方が説明が付きやすいかもしれない。
 また、前掲の図のようにティアマト彗星が空を横切る場合、見え始めた直後に核の分離が観測されたとすると、そのときの彗星の位置は東の地平線付近となる。彗星の尾は太陽の反対方向、つまり東に向かってなびいて見えることになるので、尾は天頂方向ではなく地平線の方向に向かって見えることになる。作中の「最接近時刻のころに地平線近くに逢って天頂方向に尾が伸びている」条件を満たす場合、分離時の見え方の両立は難しい。

■隕石の落下方向
 下の図は、地球最接近時刻にティアマト彗星から地球を見下ろした図である。
画像

 彗星は太陽に向かって運行しているので、彗星から見た地球は図の左から右に向かって動いている。彗星核から分離した破片の運動は、地球に対して右から左(東から西方向)となる。
 劇中では核の破片は日本列島の東から接近しているので、方向としては整合している。

■その他
 作中の様々な描写を全て満たすような軌道条件が存在しないのは明らかだ。しかし、作中の描写が実際に起こったらどのような形になるのか、そういう条件を探索する中で、架空の天体現象のリアルな側面に触れることができるのは楽しいことだと思う。

key word: "comet Tiamat", "Your name", "Kimi no na wa", orbit, "orbital elements"

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