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zoom RSS 宇宙船ヘルメスの造形 映画「オデッセイ」(The Martian)の参考

<<   作成日時 : 2016/03/03 00:29   >>

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 原作小説「火星の人」と映画「オデッセイ」(いずれも原題はThe Martian)で印象が大きく異なるもののひとつが、地球と火星を往復する有人宇宙船「ヘルメス」のデザインだろう。

映画版のヘルメス(予告編スクリーンショット)
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 映画版のヘルメスは、非常に巨大な宇宙船である。円筒状のモジュールや2枚1対の長大な太陽電池パネル、それと直角に張り出したラジエーターなどは、明確に国際宇宙ステーションの形状を意識している。

国際宇宙ステーション(ウィキペディア日本語版より)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E5%AE%87%E5%AE%99%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3#/media/File:STS-134_International_Space_Station_after_undocking.jpg
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 JAXAの国際宇宙ステーション関係ページ(http://iss.jaxa.jp/iss/)によれば、国際宇宙ステーションは、ロシアのソユーズやアメリカのスペースシャトルにより40数回にわたってモジュールを打ち上げ、宇宙空間で組み立てて建設された。建設期間は、計画を縮小してなお、11年に及んだ。

 ヘルメスが国際宇宙ステーション同様のパーツから成っているとすると、期間はともかく、多数回の打ち上げ・組立作業が必要かもしれないと思えてくる。

 一方、現在構想されている地球-火星往還船は、これほど複雑な構造は考えられていない。NASAのミッション・デザイン・リファレンス(MDR)5.0では、2回の大型ロケットの打ち上げで居住区と推進部を打ち上げ、それらを軌道上でドッキングさせ、そこに第3の小型ロケットで打ち上げられた有人船オリオンを結合させて乗り込む形となっている。

NASA MDR5.0(再掲)
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(2016.4.2追記)
なお、SPACE.COMの「Surviving 'The Martian': How to Stay Alive on Mars (Infographic)」(http://www.space.com/30400-the-martian-how-to-stay-alive-on-mars-infographic.html)に、映画版ヘルメスの構造の解説と、DRA5.0の火星往還船との対比図が掲載されている。
※この記事については、「さくらの映画/読書スイッチ」(http://sakuraswitch.blogspot.jp/2015/10/book331-2014.html)で知ったもの。
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ヘルメスは小説では全5回のアレス・ミッション、つまり5回の火星往復に使うことになっているとのことなので、MDR5.0版に比べて大型になるのはわかるが、組み立て手間の削減を考えれば、国際宇宙ステーションよりは、各個のモジュールは大きく、結合回数は少なくする方向になるのではないだろうか。


 余談だが、アメリカの最初の宇宙ステーションであるスカイラブは、サターンV型ロケットの三段目を改造して作られ、居住空間が単体で国際宇宙ステーション全体の3/4に達する規模のものを1回で打ち上げている。

スカイラブ(ウィキペディア日本語版)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%96%E8%A8%88%E7%94%BB
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 火星船の組み立てに関して、sorae.jpに次のような記事がある。(2016.4.13加筆)

宇宙でふくらむエアドーム、その歴史と未来 2016/03/23
http://sorae.jp/02/20160323_beam.html

スカイラブの逆襲、火星行きはどうなる?

そこで、超大型ロケット「SLS」を使って最初から巨大なモジュールを打ち上げる、その名も「スカイラブII」という構想があります。「SLS」は月や火星の有人探査のために開発中のロケットで、「サターンV」とほぼ同じ能力を持っています。この超大型ロケットを使い、「トランスハブ」と同じ直径8.5mのモジュールを直接、地上から打ち上げてしまおうというのです。しかも「SLS」が運ぶことができる重量は140tもありますから、内部の設備はもちろん、太陽電池など外部の設備も一緒に打ち上げることができます。元祖のスカイラブもそうでしたが、別のロケットで何度も打ち上げて組み立てるより大きなロケットでまとめて打ち上げる方が、宇宙での作業が減って楽なのです。なにしろ、作業用に宇宙飛行士を打ち上げるだけで数十億円もかかるのですから。



 映画版と小説版の構造の大きな違いとして、映画版では船体とは分離回転させる重力区画を備えているのに対して、原作「火星の人」の中では、船体全体を回転させる点が挙げられる。発生する重力も、映画の方は撮影の都合もあってか、ほぼ1Gなのに対し、小説中の描写では、船内の場所にもよるが、最大で0.2G程度のようだ。ミーティングなどにも使われる「ザ・レク」という部屋は、船の中心に近く、火星より小さい0.2Gとの描写がある。また、小説版では、補給船タイヤン・シェンとのドッキングするときは船体の回転を止め、船内は無重量状態になっている。

 いずれにしろ、映画のヘルメスは、国際宇宙ステーションのパーツに似せることで「ありそう」な感じを狙った結果、有人探査船としてのリアリティとか原作小説の再現性にはあまりこだわらないデザインとなっている。

 ところで、小説版のヘルメスを再現した画像を作っている人がいるのではないかと思って探したところ、DeviantArt(http://www.deviantart.com/)のfrancisdrakexさんのギャラリー(http://francisdrakex.deviantart.com/)で、独自のヘルメスが公開されていた。

 francisdrakexさんは、コメント欄での質疑でデザインコンセプトを次のように述べている。(2016.4.13加筆)

When I did this concept only the book was available. I tried to retrieve all information from the book on the ships design, like payload, acceleration, travel time, artificial gravity. Then I shaped it into a concept, using formulas from the Atomic Rockets website (www.projectrho.com/public_html…)

Finally I tried to 'build it' with minimum hardware requirements. For example the cinema version uses a cool-looking rotating centrifuge ring to create artificial gravity. This concept here uses a head-over-heels spin with no extra hardware, while still retaining the ability to thrust continuosly (old NASA concept).

So if you watch the movie, enjoy their concept. When you read the book, make your own picture.
b.t.w if you do not want to read the book: There is also an excellent audio book available for listening.



火星軌道上のfrancisdrakex版ヘルメス(前方から)
http://francisdrakex.deviantart.com/art/Hermes-from-The-Martian-485080855
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火星軌道上のfrancisdrakex版ヘルメス(後方から)
http://francisdrakex.deviantart.com/art/Hermes-from-The-Martian-rear-view-485084228
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地球軌道上のfrancisdrakex版ヘルメス
居住区にオリオン宇宙船が結合している。
http://francisdrakex.deviantart.com/art/Hermes-in-Earth-Orbit-485173853
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 原作小説のヘルメスは、搭載した原子炉の電力で駆動する電気推進の一種である「比推力可変型プラズマ推進機(VASIMR:ヴァシミール)」を少なくとも4基搭載している。

 それを踏まえてか、francisdrakexさんのヘルメスの全体的なフォルムは、NASAの原子力ロケット「プロメテウス」計画の一つとして検討されていたJIMO(https://ja.wikipedia.org/wiki/JIMO)のデザインを踏襲しているようだ。

JIMOの構造図(ウィキペディア日本語版より)
右側が船首で、原子炉がある。左端がペイロードとイオンエンジン
https://ja.wikipedia.org/wiki/JIMO#/media/File:JIMO_spacecraft.png
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 実際のヴァシミールは、2014年にも国際宇宙ステーションに搭載してのテストが予定されていたが、2016年3月現在、まだ実現していない。また、出力200kWは国際宇宙ステーションの給電能力を上回るという。国際宇宙ステーションに似せたデザインの映画版ヘルメスの電力が心配になるが、小説同様、ヨハンセンが原子炉技術者という位置づけのようなので、原子炉は搭載しているようだ。

また、francisdrakexさんのヘルメスの主推進機は、船体の先端ではなく、中央付近(JIMOのデザインとして端の方だが)に配置されている。地球-火星間を巡航中は、船体をバトンのように回転させつつ、回転しない中間点に配置されたヴァシミールで連続的に加速を行うと言う発想になっているようだ。

「マーズ・ダイレクト」での火星着陸船については、噴射が終わった最終段のロケットとケーブルで連結して回転を加えることにより着陸船床方向に火星重力程度の人工重力を発生させるアイディアがあり、別記事で取り上げた動画でもそのようになっている。

「Mars Direct in a Nutshell」(https://www.youtube.com/watch?v=NMZy2gxrF4g)のスクリーンショットより
(2016.4.2追記)
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 マーズ・ダイレクト方式をモデルにするなら、回転の仕方はfrancisdrakexさんのイラストに近い感じでよいかもしれない。

 小説版では、独立した重力区画はなく、船内が狭いとしているので、その点、映画版は、かなりアレンジされていると言える。(2016.04.13加筆修正)


francisdrakex版ヘルメスの回転イメージ(2016.3..27追記)
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francisdrakex版ヘルメスの回転(GISアニメーション)
http://francisdrakex.deviantart.com/art/Hermes-Rotate-564814706
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(2016.3.8 タイトル一部変更)

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
映画を見ていて、船員が重力区画へ通じるシャフトへ飛び込む場面が何度かありましたね。
その場面が、映画館を出たあと気になってしまいました。あのシャフトは360度、どの角度にあるときでも飛び込めるのでしょうか?
つまり、軸の部分には船体の構造を支える内骨格(柱)のようなものがあれば、通過する人が穴と柱に挟まれるという事故が起きるし、もし骨格がなくて船体の前後は回転軸の前後でベアリングみたいなもので連結されているだけだとしたら、強度的にどうなんだという気もするし・・・。
通りすがり
2016/03/03 01:30
通りすがり さま
構造や強度は、まあ問題ないんだろうと思っておくしかないですよね。映画版ヘルメスは小説版に比べるとかなり強靭で豪華な感じですね。
MASA(管理者)
2016/03/04 00:02
上のアニメーションのように船全体を回転させる方が構造的にも簡単で理に適ってるとは判るのですが、普通の人には映画2010年のディスカバリー号みたいに故障してると思われそうですw
原作ファン
2016/03/31 20:12
原作ファンさま
第一印象はそれで構わないと思うんですよね。でも見ているうちにそうじゃないとわかる、あるいは見終わって誰かと話し合ったりネットで理屈を調べたりして初めてああそうかとわかるのでいいんだと思います。それがまたいいSF映画の醍醐味でもあると思います。
GIFアニメを改めて見ていて気づきましたが、火星周回軌道を離脱しないうちは回転はさせないような気がしますね。
MASA(管理者)
2016/04/01 05:09

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